『世論時報』8月号の特集 新時代に住みたい家」に掲載されました。

 経済優先から命優先への転換点 
「呼吸建材」が建築産業を健康産業に変える!

空気が違う!エアコン要らずの健康住宅
呼吸建材で建てた「個人住宅」

~東京都三鷹市~

夜間の徘徊者がいなくなったケアハウス
生きた杉でリフォームした「高齢者の住まい」

~栃木県宇都宮市~

ここから始まる木造都市の夜明け
生きた杉で建てた「子供の学び家」

~山口県山口市~

施工業者も健康になる家づくり
暮らす人も作る人も喜ぶ「オフィス」
~千葉県鴨川市~

世論時報8月号 特集「新時代に住みたい家」

経済優先から命優先への転換点

「呼吸建材」が建築産業を健康産業に変える

 戦後の日本社会は、経済優先、効率優先で動いてきた。林業も例外ではない。木は切り出した後、水分を抜くために乾燥させる。古来よりその方法は、自然乾燥だった。

 近年、効率を優先し、100°C前後の高温で、短時間で乾燥させる人口乾燥が主流となった。しかし、それでは木が死んでしまう。そのことに気付かされた伊藤好則氏(アイ・ケイ・ケイ株式会社代表)は、45°Cの低温で、木の酵素を生かしたまま、要らない水分を放出する乾燥装置「愛工房」を開発した。愛工房で乾燥させた木材は、本来の色、艶、香り、防虫能力、精油などを保ち、生きた木として活用できる。

 この「生きた杉」の存在を知り、全国からその杉を使って建物を建てたいとの声が上がっている。本特集では、生きた杉で作られた、①個人住宅、②高齢者の住まい(ケアハウス)、③子どもの学び家(幼稚園)、④企業オフィスの4カ所を取材した。それぞれが体感した生きた木の力チカラが、経済優先の価値観を転換させる大きなポイントとなるだろう。

(取材・文 立川秀明)

呼吸建材で建てた「個人住宅」~東京都三鷹市~
空気が違う!エアコン要らずの健康住宅

「設計図も施工業者も人任せにしない」が出発点

 東京都三鷹市の閑静な住宅街。大手ハウスメーカーが建てたであろうスタイリッシュな家が建ち並ぶ中、一軒の木造住宅が異彩を放っていた。

 木の色が濃く、ほぼオレンジ色と言ってよいくらい鮮やかな茶色で、なおかつ艶がある。そのせいで、周囲の家のグレーやベージュの外壁が、かなり地味に見えてしまう。

 家主の吉野文明氏はもともと健康に関心があり、三年前に池袋で開催された千島学説に関する勉強会に、講師として招かれた伊藤氏に出会い、低温乾燥装置による生きた杉の存在を知った。「ずっと木造の家に住みたかったけれど、木のことがよく分からなかったのです。伊藤さんの講演を聞いて、これだと思いました。しばらくして伊藤さんのオフィスを訪ね、生きた杉で自分の終の棲家を建てたい旨を伝えると、『自分の住む家なのだから、まず自分で設計図を描いてみて下さい。そして施工業者も自分で探して下さい』と言われました。最初、お話を聞いた時は丁寧な方に見えたのに、厳しい人だなと思い、考え直そうかと思いました」と吉野氏は笑う。

 建材メーカーの多くは、「お宅の建材で家を建てたい」とお客様が来た場合、付き合いのある設計屋や施工業者を紹介し、そこから紹介料をもらい、自分が主導権を握って商売したがるのが当然だ。しかし、伊藤氏はその真逆だった。「家は誰のための建物なのか、ということです。他でもない、お客様自身のための家ならば、まずお客様自身がどういう家にしたいか、どういう間取りの家に住みたいかを自ら考えて欲しい。そして、その工事を依頼する業者も、自分が信頼する業者を選んで欲しい。伝手が無い場合に限って、こちらから紹介するようにしています」と伊藤氏。

 吉野氏は、慣れない手つきでスケールと格闘しながら、何とか設計図を描き上げた。そして、地元の知り合いの工務店に「こちらで指定する木材で家を建ててもらえるか?」と尋ねると「是非に」との回答が得られ、無事に着工の運びとなった。

風を入れるとすぐに室温が下がる本物の木造住宅

 吉野氏に、この家に住んでみた感想を伺った。

 「とにかく空気感が違います。香りが良くて、温かみがあり、外から入る風が本当に気持ちがよいです。前の家では夜遅くまで起きていましたが、この家に住むと、日が落ちると眠くなってしまいます。そして、朝までぐっすり眠れます。眠れ過ぎてしまうくらいです」

 吉野邸を取材したのは7月の初旬で、すでに日中も30°Cを超す日が続いていた。しかし、エアコンを使ったのは、雨の日の風呂上がりの一回だけだと言う。

 木造の家は、温まりやすく、冷めやすいのが特徴だ。室温が上がっても、風が通るとたちまち室温が下がる。一方、鉄筋コンクリートの家は、暖まりにくく、冷めにくい。夜になっても日中の熱を貯め込んでしまうため、なかなか涼しくならない。

 そもそも、現代において、鉄筋コンクリート住宅が木造住宅よりも好まれる理由の一つは、耐震性の問題にある。どうしても、木造住宅の方が耐震性は弱くなりがちだ。しかし、木造住宅でも、耐震性を高める方法がある。

 伊藤氏は、その方法として、山形県山形市に本社を置く、木造建築の設計・施工会社である株式会社シェルターが開発した「KES構法」を吉野氏に勧め、今回の住宅には全面的にこの構法が導入されている。

 そして、吉野邸がエアコンを使わずに済むほど室内で快適に過ごせる理由は、生きた杉の効果に加えて、断熱材に使われている「フォレストボード」にもある。これは、秋田県にある白神フォレストコーポレーションが開発した断熱性と吸放湿性に優れた、自然素材100%の断熱材である。

 家中に敷き詰められたフォレストボードと生きた杉が作り出す空間は、本当に森の中にいるような空気を五感で感じさせてくれる。

 そして、住む環境の空気が良いことほど、健康にとって重要なことはない。現代の住宅の多くは、ほとんどの壁にはビニールクロスが貼られ、床にはウレタン塗装を施したフローリング材が敷かれている。

 それらの素材から、可塑剤という化学物質が揮発し、空気中に充満する。それを人間が吸って体内に取り入れると、体が「必要のないもの」と認識して排除しようとするが、自然界のものではないため、簡単には排除ができない。

 それでも賢明に排除しようとすることで体内の酵素を消費してしまう。

 その結果、免疫力が落ちて、様々な形で健康を害してしまう。

 また、木造住宅にはシロアリ対策で防腐剤を塗る。天然成分の防腐剤もあるが、安価な予算で作られた防腐剤が使われる。これも少しずつ揮発して空気中に出てきたものを人間が吸って、肝臓や腎臓がダメージを負い、風邪もひきやすくなる。

 これらの症状の総称が、シックハウス症候群と名付けられている。

家を建てるなら健康住宅

 「建築産業で働いている人達の中で、それが健康産業だと胸を張って言える人はほとんどいません。消費者が健康に良い住宅を求めるように変わって行けば、ハウスメーカーも変わらざるを得ないのです」と伊藤氏は語る。それに対して、同社の石原正博氏が次のように続ける。

 「工務店も含めて、ハウスメーカーの役員のほとんどは、自分の会社の家には住まないのは有名な話です。農薬を大量に使って野菜を育てた農家が、自分ではその野菜は食べないという話と同じです」

 こういった真実を伝えないメディアには大きな罪がある。

 家を建てようとする特に若い世代は、限られた予算内でどうやって家を建てられるかを考え、健康のことには目を瞑ってしまう。

 しかし、不健康住宅に住んだがゆえに、病気になり、医療費を払い続けた挙句、早死にしてしまったとすれば、結果的に金銭的に損をするだけでなく、金銭では買えない命を削ることになってしまう。

 空気中に、体で分解できないような化学物質が無ければ、余計な酵素は使わずに済み、体がよく休まるので、自然と疲労回復が進む。

 家を建てる際は、正しい知識を得た上で、健康を害する素材を使っていない健康住宅を、消費者が自ら選んで行かなければいけない。

世論時報8月号 生きた杉でリフォームした「高齢者の住まい」~栃木県宇都宮市~

生きた杉でリフォームした「高齢者の住まい」 ~栃木県宇都宮市~
夜間の徘徊者がいなくなったケアハウス

生きた杉はきっと消毒液に負けない

 宇都宮駅から、車で20分ほどの場所に、ケアハウスとグループホームの「エバーグリーンみずほの」はある。2006年にオープンした全50床のケアハウスは、10年余りが経過し、ところどころ劣化が進み、リフォームを検討しなければいけない時期になった。

 生沼氏は、環境問題に興味ががり、ある時、環境ジャーナリストの船瀬俊介氏の著書『奇跡の杉』を読み、低温乾燥させた杉の存在を知った。生きた杉の可能性にほれ込み、是非とも良い空気の中で入居者さん達に過ごしてもらいたいとの思いで、愛工房で乾燥させた杉を使ってリフォームを手掛けることを決意した。

 しかし、生きた杉を使おうと決めてからが大変だった。まず、他の建材よりも予算が割高になることに対して、経営陣は猛反対。また、施工を依頼する業者も「今まで、生きた木など扱った経験がない」と及び腰。通常、施工業者は、木材と言えば、高温で乾燥させたKD材しか使ったことがないのが当たり前だという。

 低温で乾燥させた生きた木は、吸湿能力があるため、施工を終えた後も、収縮したり膨張したりする。一般的なKD材と同じように施工すると、ゆがみが生じることもあり、クレームの対象になりやすいので、生きた木を使うことを業者はどうしても敬遠したがる。

 さらに、施設内は、次亜塩素酸やエタノールを使って消毒を施すことが法律で義務付けられているが、一般的に、木材は消毒液との相性が悪く、木材が消毒液に負けて劣化してしまうのではと言われてきた。それを理由に、「もし無垢材でリフォームすると言うなら辞めさせてもらう」と言い出す職員もいた。

 しかし、生沼氏は「生きた杉は消毒液に負けてしまうほど弱くない」と考え、それを証明するために、自ら消毒液を愛工房で乾燥させた杉材に塗布する実験を行い、その変化を観察したが、杉材に劣化などの影響が見られないことが確認できた。

洗浄液でできたシミを元に戻す生きた木の力

 生沼氏の必死の努力もあり、周囲も生きた杉への理解が拡まり、ようやくリフォームを開始し、最初に手掛けた厨房の休憩室を杉材で仕上げて間もなく、とある事件が起きた。

 毎年、エアコンの洗浄を業者に委託していたが、エアコンに吹きかけた洗浄液がリフォームしたばかりの真新しい杉の床材に落ち、その部分がまっ黒に焼けて変色した。

 洗浄業者もリフォーム業者も大慌てで、水や酢を使って懸命に拭きとったが変色は取れず、杉材の張り替えなどを考えながらしばらく放置していたところ、一ヶ月もしない内に、みるみるとその変色が消えて行った。木の酵素が洗浄液を分解し、きれいな細胞に生まれ変わったのだ。

 「木が生きているので、自分で自分の体を元に戻す力があることを、図らずも証明してくれたのです。同時に、今まで、当り前のように使っていた洗浄液が、どれだけ自然のものに悪影響を及ぼすか、生きた木がその身をもって教えてくれました」と、伊藤氏は語る。

 そして最も驚くべき効果は、リフォームを始め出すと、高齢の入居者で、それまでは夜なかなか眠れずに徘徊を繰り返していた方が、夜眠れるようになり徘徊をしなくなったという。天然の木材には、リラックス効果や睡眠の質の向上効果があることは、近年の実験でも証明されているが、目に見えた変化が現れ、生沼氏も驚いたと言う。

 リフォーム後の部屋を見た入居者さんは、木がふんだんに使われいる部屋に驚き、「昔のお金持ちの家はこういう感じだった。

 こんな部屋に住めるとは思わなかった」と喜んでいるという。人生の晩年期を、生きた木に囲まれた環境で過ごせることは、得難い幸せである。

世論時報8月号 生きた杉で建てた「子供の学び家」~山口県山口市~

生きた杉で建てた「子供の学び家」~山口県山口市~
ここから始まる木造都市の夜明け

山のようちえん 森のようちえん

 生きた杉をふんだんにっ使ったすごい幼稚園が出来たと聞き、一路、山口県に向かった。JR新山口駅で下車し、徒歩10分ほど歩くと、街を一望できる高台に着く。そこに、真新しくかわいらしい、木造の建物達が群れをなして立っていた。

 

 

 入口に掲げられている看板を見ると、「山のようちえん」とだけ書かれている。インターホンを鳴らして、中に通してもらい、まず目に飛び込んできたのが、木材をこれでもかと使った木の部屋だ。そこで、子ども達が、積み木や電車のおもちゃで夢中に遊んでいる。

 その部屋からは、何とも言えない木の優しくて密度の濃い良い香りが立ち込める。子ども達がとても楽しそうなのは勿論だが、ただ楽しそうなだけでなく、どの子も穏やかな表情に見えたのが印象的だった。

 部屋の壮観さと、子ども達の様子に見とれていると、園長の片山耕修氏が温かく出迎えてくれた。

 「立派な建物ですね!」と言うと、「建物は立派でも、そこを管理する人間は立派ではなくてね」と微笑むその様子に、片山氏の人柄が感じられた。

 片山氏が園長を務める小郡幼稚園は、筆者が取材に訪れた5日前に竣工式を終えたばかりの真新しい「山のようちえん」と、そこからほど近い市街地にある「森のようちえん」の二つのキャンパスがある。

 森のようちえんは、小郡幼稚園の発祥地であり、園庭には先代の園長が植えた木々が生い茂り、全体の80%は木陰に覆われ、夏場は特に涼しく過ごしやすかった。

 しかし、市街地のため、土地が狭く子ども達の遊ぶスペースや、駐車場の問題などが常に課題だったという。そこで良い土地があればと探していたところ、今の土地が見つかった。

 新キャンパス建築の計画が進み始めた2017年、東京で開催された千島学説の勉強会で、片山氏は伊藤氏と運命的な出会いを果たす。低温乾燥させた杉材に大きな可能性を感じた片山氏は、その二カ月後、東京のアイ・ケイ・ケイ株式会社を訪ね、愛工房で乾燥させた杉の魅力を直接体験し、確信を持つ。

 ここから、現代における木造建築の、新たな可能性を拓く幼稚園づくりが本格的に始まって行った。

命の畑と秘密の田んぼ

 片山氏の、教育に対するどのような考えが元となって、このような木造建築の校舎が作られたのかを伺った。

「幼児教育は人間教育の基礎を培う大切な時期と言われていますが、実際は教育問題として扱われるのは小学校以降の教育です。幼稚園、保育園の間は、とにかく怪我をしないように、親も安心して預けられる場所であることが求められ、待機児童が何人いるかばかりが注目されていますが、肝心の教育の質に関して関心が持たれません。幼児教育の本質を一言で言うと『遊び』です。砂場と水があれば、子ども達は大喜びで遊びます。植物が育つのと同じで、お日様があり、風があり、そして、水と土があれば、しっかり命は育って行きます。自然に囲まれて、五感で自然を感じて欲しい。そういうことを心掛けた教育をしています」

 その言葉通り、敷地面積約3千坪の空間の中心には、子ども達が目いっぱい遊べる広々とした園庭が配置されている。そして、子ども達を見守るように、教室や事務室などの建物が、園庭の周りを囲む形で配置されている。

 

 五感を通して自然を感じられる場所は、園庭だけではない。片山氏が「ここがうちの園の命です」と言って紹介してくれた場所は、畑だった。「子どもは畑仕事が大好きです。毎朝、『畑仕事ありますかー?』と聞いてきます」

 子ども達が自分達で育てた野菜は、収穫後、給食のおかずとなって、子ども達自身に食べてもらうようにするという。それも、園内に植えた木の落ち葉や雑草などを集めて堆肥作りも並行して行なうという本格ぶりだ。

 畑だけではない。次に片山氏が「私の秘密の場所です」と言って連れて行ってくれたのは、なんと田んぼ。全ての土地を有効に活用したいとの思いから、教室裏の斜面を利用して棚田を作ったとのこと。水は地下水を利用している。

 「田植え歌を歌いながら苗を植える子ども達の姿を見て、ジーンときましたね」と片山氏。園長先生がこの場所に来ると、それを見つけた子ども達がたくさん駆け寄ってくるという。

子どものために木を使おう

 そして、山のようちえん最大のポイントは、何と言っても、地元山口の原木を3千本以上使い、そのほとんどを低温乾燥機で生きたまま乾燥させてできた杉材で建てた校舎である。

 全部で13棟ある教室を4区画に分け、それぞれ、光の棟、風の棟、水の棟、土の棟と呼称している。かつての日本人は『1,2,3,4』を『ひ、ふ、み、よ』と数えていたが、それは「光、風、水、土」のことを指していた。

 その中の一部屋に入ってみると、壁から天井まで全て木材が使用されている。特に壁に注目すると、12cm×18cmの一本一本が柱になり得る立派な角材を縦に並べることで柱壁が作られていた。この構法は『縦ログ』と呼ばれ、耐震性にも、防火性にも優れている。

 「通常のログハウスは、木材を横にして重ねて行きますが、これは縦に並べて行っています。木はもともと、立って生きています。なるべく木が自然の状態でいられるようにと考えられました」と片山氏。

 木材の伐採地にもこだわりがある。今回使用した木材のほとんどは、山口県の徳地という地域に集められた県産杉だ。この徳地の杉は、鎌倉時代に、戦乱で焼失した奈良の東大寺を再建する際に使われた杉である。その徳地で集積された丸太杉が製材された低温乾燥機の愛工房に運ばれた。子ども達の住まいが新たな徳地杉の生き場所となった。

 片山氏は、「小学生以上になれば、鉄筋コンクリートの校舎でも構わないのです」と話す。しかし、感受性が豊かな、幼児期の子ども達には、どうしても、木のぬくもりや、木の匂いの中で育って欲しかった。

 「木にはすごい力があるということは、もう皆知っているのです。文部科学省は以前から、文教施設をつくる際は木造建築を推奨したり、木造住宅は子どもの成長にとっても良いと発信してきました。多くの人は、今度家を建てる時は木で建てようと思うのですが、なかなか実行されません。それには予算や手続きや色々な問題があると思いますが、子どもにとって良いことが分かっているなら、木を使おうよ!

 というのが、私がこの山のようちえんを建てた理由の全てです。それだけです」

 子どもが幸せになることをなぜ大人がやろうとしないのか。終始、穏やかに話を聞かせてくれた片山氏が、その思いを語る時だけは、口調に熱がこもった。

 山のようちえんには、木造建築関係者の視察予定が今から入り始めているという。

 「ウチが作れたのだから、この幼稚園を参考にして、後に続く人達が出て来て欲しいです。後に続いてもらわないと、苦労して作った意味がありませんよ」生きた木が持つ力に、体感で気付く人が確実に増えてきている。木造都市の夜明けが、全ての命の源である山の口・山口の地から始まっている。

 

「山のようちえん」ギャラリー

 

 

 

世論時報8月号 暮らす人も作る人も喜ぶ「オフィス」~千葉県鴨川市~

暮らす人も作る人も喜ぶ「オフィス」~千葉県鴨川市~
施工業者も健康になる家づくり

最後の工程は住む人使う人が行う

 本誌の先月号(7月号)に、「呼吸する住宅はウィルスを抑制する」と題した記事を掲載した。内容は、千葉県鴨川市にある、創業1906年の観光土産食品製造・販売の老舗、株式会社亀屋本店が、低温乾燥させた「生きた杉」で、同社の事務所兼倉庫と同社社長(末吉晃一氏)の終の棲家を建築している様子を取材したものだった。

 本特集内で、「生きた杉」を取り上げる上で、その予告的役割の意味も籠めて、まだ建築途中ではあったが、無理を言って取材させてもらった。

 その取材から約一ヶ月経ち、「事務所兼倉庫が完成しました」との連絡を頂いたので、是非写真を送ってもらうようお願いした。

 末吉社長に完成した建物の感想を伺うと、次のように語ってくれた。

「中に入ると、本当に空気が清々しくて、気持ちが良いです。何よりこの建物は呼吸していて、生きているという点が、他との決定的に違うところです。呼吸を感じることを忘れずに過ごして行きたいです」

 この事務所兼倉庫を紹介する上で、特筆すべき点は三つある(伊藤氏が携わる建物には全て共通する点であることを補足する)。

 

 一つ目は、電気工事の配線を工夫することで、建物内の電磁波の発生を、最小限に抑えた点だ。これは、長年、電気工事会社を経営し、電磁波が体にとって有害であることを肌身で感じてきた伊藤氏だからこそ編み出せた技である。

 二つ目は、建物の最後の仕上げに、天然成分100%でできた木材の保護液「ハッピーウッド」を塗布した点だ。この保護液を塗布することで、木材の劣化を防ぎ、傷がつきにくくなる効果がある。そして、ユニークなのは、工事の最終段階として、このハッピーウッドを塗布するのは、施工業者ではなく、住む人使う人自身に塗布してもらうのが伊藤氏のこだわりだという。

 それは、「建物はあくまでもそこに住む人のものなので、建物を完成させる最後の工程を、自分の手で行うことで、その建物への愛着を増して欲しいのです」との狙いがある。

 

建築中に貼り出された一枚の通達文

 三つ目は、建築中に貼り出された一枚の用紙だ。

 その用紙には「当建物の建設に携わる皆さんへ」の書き出しで始まったいる。以下全文を記載したい。

 

 

「安全に留意し、無事故で竣工することを第一として携わってください。健康を損なうネオニコチノイド(農毒薬)入りの建材は一切使用しません。

 この建物で使用する木材は全て『国産杉』。45°Cの木材乾燥装置『愛工房』で乾燥した木の命(酵素)を損なわない、生きた『無垢材』を使用します。
生きた『無垢材』は現場の作業者へ、現場周辺へ、安全な空気を提供します。
生きた『無垢材』を使った建物は、最適な住空間と安全な空気を提供します。

 健康と環境に一番大切なもの、それは、きれいな空気、安全な空気です。

 スギ材、ヒノキ材のウィルスに対する試験結果、ウィルスの不活化、抗ウィルス活性値が高く、接触すると感染力のあるインフルエンザウィルスの数が減少することが明らかに。平成28年度『奈良の木で健康になる』実証事業で発表。

 タバコの煙は多くの有害物質を含み、周辺の空気を汚します。喫煙は(加熱式たばこも)当人だけでなく、周りの生命も脅かします。

当建物の建設に関わる皆さんは、建物内及び建物周辺での喫煙は(加熱式たばこも)行わないでください。

 この建物は、『アイ・健康と環境を考える会/アイ・ケイ・ケイR』の協力で、安全・安心の『呼吸住宅R』を、作業に携わるもの全員の協力でお届けします」

 住む人だけでなく、その工事に携わる人達全てが健康であってこそ、建築産業が健康産業に変わる。その本気の思いが強く伝わる文章である。

世論時報7月号 呼吸する住宅はウィルスを抑制する ~千葉県鴨川市~

建築産業は健康産業にならなければいけない
呼吸する住宅はウィルスを抑制する

これまでの常識を覆す木材乾燥装置

 平成31年2月号特集「森林大国の可能性」は、多数の読者から好評を頂いた。

 中でも常識を覆す木材乾燥装置「愛工房」を開発した伊藤好則氏(以下、伊藤氏)を紹介した記事に対して、「敬服した」「これはすごい」「感銘を受けた」との感想が寄せられた。

 木材乾燥装置「愛工房」の大きな特徴を簡潔に言うと、「45°Cの低温」と、「多湿」であることの2点だ。

 伊藤氏は、木が木の生命を損なわず、水分を出す最適な温度が45°Cであることに辿り着く。さらに、人は湿度が高いほど発汗が促されるので、木が放出する水分を活用し、湿度を高め、庫内の水蒸気量は制御装置で管理することにした。

 これは、木も人と同様の「生き物」だと考える伊藤氏が、木の声を聴きながら辿り着いた答えだ。しかし、現在の木材乾燥はこの真逆である。100°C前後の高温と、除湿した環境下で、短時間で一気に乾燥させる効率を優先した方法が主流となっている。それでは「木が死んでしまう」と伊藤氏は指摘する。

 「愛工房」で乾燥させた木材は、酵素をはじめとした油成分が生きているため、光沢があり、カビが生えず、虫にも食われず、香り高く、水をはじく。まさしく生きた木だ。

 この愛工房で乾燥させた木材を使って、住居やオフィスを作りたいとの要望は後を絶たない。

 今回取材に訪れたのは、千葉県鴨川市。創業1906年の観光土産食品製造・販売の事務所兼倉庫、そして社長の終の棲家を、愛工房の木材を使って建設中とのことだった。

 代表取締役社長の末吉晃一氏(以下、末吉氏)に、なぜそもそも二つの建物を建てることになったのか、そしてなぜ愛工房の木材を使おうと思ったのかを尋ねた。

 「今の事務所や倉庫は、海から至近の海抜0メートルに近い地点にあります。東日本大震災で津波の恐怖を目の当たりにしました。この地域は、たまたま直近の70~80年は無事でしたが、いざという時のためにも、事務所と倉庫のバックアップオフィスをも作っておかなければいけないなと。愛工房の素晴らしさは、かねてから船瀬俊介氏の講演会や著書『奇跡の杉』を読んで知っていたので、是非この機会に、愛工房の木材で作りたいと思いました」

 当初は、事務所兼倉庫のみを建設する予定だった。しかし、移転先の地主さんとの交渉の結果、田んぼを造成した土地に建物を建てざるを得なくなった。手続き上、農地を宅地へと転用するには、いくつものルールがある。その一つが、元の農地面積に対して22%以上の建物を建てなければいけない通称「22%ルール」だ。

 事務所と倉庫だけでは、元の土地に対して22%に達しないため、末吉社長は悩んだ結果、事務所の隣に終の棲家を作ることにした。

 それらの工事を依頼すべく、長年会社同士の付き合いを続けてきた建築会社(株式会社サン建築総合事務所)に相談すると、同社の島田誠一会長(以下、島田氏)は、末吉氏が愛工房の存在を知る以前から、愛工房の可能性に注目していた人物だった。

ウィルスは生きた木とは共生できない

 島田氏は、40年間に亘って住宅の設計や施工を手掛けてきたが、設計に関する法律などがどんどんハウスメーカーや新建材メーカーに有利なように変わって行く様子を直に体感し、建築業界に不信感や危機感を覚えていた。その思いを解決するために、いくつもの建築関係セミナーに通って、勉強を続けていた中で伊藤氏と出会い、その話を聞き、愛工房の存在を知ることで、自分の思いが間違っていなかったことを確信したという。

 愛工房の生みの親である伊藤氏は、愛工房や愛工房で乾燥させた木材を宣伝することを好まない。それは、「本物であれば売り込む必要もないし、広告を出す必要もありません。その良さを実感した消費者が知り合いに勧めてくれるので、自然と拡がって行きます」との信念があるからだ。宣伝をしないため、当然、限られた人しか愛工房の存在を知らない。今回のように、依頼人(施主)と請負人(建設会社)の両者が、元々愛工房に注目していたというケースは極めて稀だった。

 しかし、順調に計画が進んでいた最中に、新型コロナウィルスの猛威が世界を襲った。観光土産食品の製造・販売を手掛ける株式会社亀屋本店の売り上げは、ほぼゼロに近い状態まで落ち込んだ。

 末吉氏は、当初、建物の全てに愛工房の木材を使用する予定だったが、予算を少しでも抑えるため、削れる部分を削る覚悟をしなければならなかった。

 その思いを島田氏に伝えた。株式会社サン建築設計事務所の小原正博社長(以下、小原氏)よりその旨が伊藤氏に伝えられる。伊藤氏は、会社の石原正博氏と直ぐに鴨川へ赴き、末吉氏、島田氏、小原氏と会談を持ち、製材所では既に資材の準備が進んでいる状況を説明し、末吉氏にこう言った。

 「社長、この建物は呼吸する建物ですよ。これからはウィルスとの共生が求められる時代です。『生きたスギ、ヒノキ』はウィルスの不活化、感染を抑制する力があることが実証されています。人々も本物の高級住宅は『呼吸住宅』であることに気づく時代になります。人間の生命にとって一番大切なのは呼吸です。つまり、一番大切なのは安全な空気です。これは商品にとっても同じです。建物は命を守るための建物でなければなりません。呼吸する家は、100年、200年持ちます」と訴え、同時に、材料費が安くなる方法も提案した。

 伊藤氏の提案に納得した末吉氏は、当初の予定通り、構造材、仕上げ材に使う木材の全てを、愛工房で乾燥した木材を使うことを決めた。

化学的な材料が一つも使われていない家

現在、国が定める建物の耐用年数は、木造は22年、鉄筋コンクリートは47年とされている。木造の耐用年数の短さには驚くばかりだ。

 昔ながらの日本の建物は、100年、200年持つのは当然だった。現に、東大寺の大仏殿や法隆寺などは1000年以上持っている。それは、丁寧にじっくりと自然乾燥させた生きたままの木を使っているからだ。しかし、効率化を優先するため、少しでも早く木材を乾燥させようと、100°Cの高温で乾燥させ、死んでしまった木材を使って建てた家は、白アリに食べられ、ダニや菌にやられ、わずか20年ほどしか持たない。

 家が長く持たないことは、家主にとっては不幸だが、ハウスメーカーにとっては幸せなことだ。ハウスメーカーは家を建てないと儲からないからだ。家を建ててもらうには、今住んでいる家が劣化してもらわなければいけない。建築業界では、「住宅ローンを返済し終えた頃には、建て替え時期になっている」とも言われるようだ。

 「命を守るための家をつくるのが建築産業の本当の姿です。建築産業は健康産業になるべきなのに、今は真逆の非健康産業になってしまっています。住む人達を幸せにする安全な建材を使った現場では、仕事をしている人達も幸せになります。人を不幸にすることが分かっていながら、金儲けをしているとすれば、自分自身も不幸になります。建築産業で働く人達のためにも、住む人達のためにも『建築産業が健康産業』になること、これが私の願いです」と伊藤氏は語る。

 完成間近の事務所に入らせてもらうと、木の良い香りが漂う。最近の建物は、外壁は勿論、内壁にもペンキや防腐剤が塗装されることが当たり前だと言う。しかし、この建物には何も塗られていない。そればかりか、この建物には、科学的な材料が一つも使われていない。これは現代建築の常識から言ってもあり得ないことだそうだ。

 伊藤氏の口癖に、「経済優先から命優先へ」との言葉がある。新型コロナウィルスの蔓延による被害は甚大であったことは間違いないが、これを契機にして、戦後の日本社会が歩んできた経済や効率化を優先する価値観から、自分も他人も含めた、人の命を優先する価値観へと変わって行きそうな予感を、愛工房が拡まって行くことで感じられる。

立川秀明(世論時報記者)

『世論時報』2019年2月号の特集「森林大国の可能性」に掲載されました

 

 

「愛工房」が”木を生かす奇跡の木材乾燥装置”として紹介されました。

「経済優先」から「命優先」へ舵を切れるのは消費者

日本の林業が廃れたのは効率を優先したため

木を生き物だと考え木に聞きながらの製作

個人宅や教育施設から届く感動の声の数々

杉の学術名は「日本の隠された財産」

 

世論時報2019年2月号 特集「森林大国の可能性」

日本の人口は世界の約2%ながら、世界の木材の約3分の1を消費している。しかし、日本国土の3分の2を森林が占める森林大国でありながら、消費する木材の約70%は海外からの輸入材である。
 「国産材の活用」は、以前から叫ばれながらも、複数の課題が入り組み、前進しづらい課題だったが、ここに来てようやく明るい兆しが見えてきた。

たまたま買った本で見つけた「日本の山林業の救世主」

 伊藤さんを知ったのは半年くらい前である。たまたま購入した、自然治癒力を研究しているある医師の本の中で、「日本の山林業の救世主」として紹介されていたのが目に留まった。何でも、今までと全く違う木材の乾燥装置を開発し、木の良さを引き出した木材を生み出すことに成功した人だという。

 今回の特集が決まった時点で、まずこの人に会ってみたいと思った。本誌の特集の趣旨と取材希望日をメールで送ると、すぐに電話をくれた。「頂いた日程は全て埋まっているのだけれど、何とか調整しましょう」と言ってくれた後、伊藤さんは日本の木々がなぜ活用できていないか、木には底知れぬ可能性があるということを熱弁してくれた。電話越しに聞くのはもったいない気がしたので、「是非、続きは当日に聞かせて下さい」と言って受話器を置いた。

 取材日当日、指定された駅に着くと、車で迎えに来てくれた伊藤さんは、「まず実物を見てもらいます」と、「愛工房」と呼ばれる木材乾燥装置が置いてある工場に連れて行ってくれた。この「愛工房」の開発こそが、彼を「日本の山林業の救世主」とまで言わしめるゆえんである。

 その乾燥装置は、全て国産材で作られており、見た目は小さめのサウナのようだった。装置の中を見せてもらったが、木の良い香りは漂っては来るものの、特に最新の技術が施されている様子もなく、至ってシンプルな作りだった。

 この装置のどのあたりがすごいのだろうか?と思いながら、「これで乾燥させた木が二階にありますよ」と言われ案内された部屋で、乾燥処理を終えた木の板を見て驚いた。

 表面は滑らかで全くひび割れがない。なおかつその色味は明るく、乾燥させたとは思えないほど艶々していて、温かみを帯びている。今までこんなに綺麗な木材を見たことはなかった。

 理屈抜きで、「愛工房」による乾燥が、木の処理方法として間違いなく良いのだということだけは分かった。

日本の林業が廃れたのは効率を優先したため

 伊藤さんは、28歳で電気工事会社を開業し、自らの会社の社員を全員非喫煙にするなど、タバコが人体や社会にもたらす悪影響について正面から取り組んだ。各地から講演に呼ばれる中で、何かに導かれるように、環境問題、特に日本の森林や林業が直面している問題に辿り着いたと言う。

 「結論から言えば、人々の意識が『経済優先』から『命優先』に変われば、森林大国の可能性はいくらでも拓けてきます」と伊藤さん。

「戦後、日本人は何でも効率化を求め、人間に都合の良い木ばかりを作るようになりました。人間に都合の良い木とは、早く育ち、早く乾く木です。早く育てるために、実から植えずに、木の枝を切って、挿し木で育てるのです。すると、時間的には早く育ちますが、挿し木の場合、直根(土中深くへ伸びる根)が育たないので、倒れやすい木になります。
 以前から、杉の山は土砂崩れが起きやすいと言われていて、私もそれが常識だと思っていましたが、それは大間違いでした。先祖たちは実(いのち)から苗を育て、植えていました。杉は土砂崩れを防ぐのに最適との文献を見て驚きました。実生の苗は土中へ根を伸ばしてから上へ伸びる、生命として当たり前のことです。杉を倒れやすい木にしていたのは人間なのです。
 乾燥にしても、昔の日本人は木を乾燥させるのに10年も20年も掛けて自然乾燥で乾かしていました。しかし、近年は、効率を求めて100°C前後の高温で一気に乾燥させるのが当たり前になってしまいました。それでは、木本来の油成分や酵素が死んでしまい、木自体として死んでしまうのです」

 つまり、伊藤さんは、木は切った後も死なずに生きていると言うのである。このことが、まず筆者には衝撃だった。

木を生き物だと考え木に聞きながらの製作

「生きた木材というのは、命の素である酵素をはじめ油成分などを損なわず呼吸をしています。木を生きたままで使えば、カビが生えることも、虫に食われることもありません。木の成分を殺してしまうから、カビが生え、虫が食うのです。それを防ぐためには消毒と称して、木に農薬という名の毒を塗らなければいけません。農薬漬けにされた木材で作られた家に住むことで健康を害した人を私は何人も見て来ました」

 そこで、木を殺さずに乾燥させられる装置は作れないかと模索し始めた伊藤さんだが、木に関しては当然の素人。しかし、「それが良かった」と本人は言う。経済や効率優先の常識に捉われなかったからだ。

 「木は生き物だと考えて、生き物が生存可能な温度で乾いて欲しいと思いました。そこで『木に聞きながら』探り当てた最適な温度が45°Cでした。後日45°Cという温度は、木の酵素を損なわない温度であること、さらに薬草の薬効を失わず変色させない乾燥温度も45°Cであったことを知り驚きました」

 開発初期の段階で乾燥温度を当時の外気温度から50°Cまで試しましたが50°Cだと表面の色が濃くなり、「これは木が嫌がっている」と思い、辿り着いたのが45°Cだった。

 また、除湿することで木を乾燥する装置であることも聞かされましたが、自分が汗を出すのは湿気のある環境です。木たちが気持ちよく汗(水)を出す環境が大切だったのです。
 「私は今までも、周りが『こうするべき』と言う常識の逆のことをするとうまく行ってきました」
 常識の逆を行って完成させた「愛工房」で乾燥させた木は、色、艶、香りを失わない、生きたままの木材として利用が可能になった。

 「東大寺の大仏殿や法隆寺など、日本には1000年以上も昔に建てられた木造建築物がいくつも現存しています。それは十分に自然乾燥させたからです。
 木は伐採され、製材され、建物や家具に使われてからも生き続けます。生きた木たちは200年300年の経過と共に強度が増します。呼吸し続けるからです。但し高温で乾燥された木、化学塗装、農(毒)薬等を使用された木にはその能力は期待できません。

 ハウスメーカーは、自分達が作る家は良いですよと一所懸命に営業します。私は、愛工房の乾燥機も、その乾燥機で乾燥させた木も、一切営業しません。営業しなければ売れない商品を売りたくありません」

 実際に、愛工房で乾燥させた木の良さを実感した人達から、その木を使って家を建てたいという申し出は後を絶たない。

個人宅や教育施設から届く感動の声の数々

 茨城県のある方は、新しい家を作るために大手のハウスメーカーと契約を済ませた。しかし、その後、伊藤さんの書いた本を読んで愛工房を知り、そのハウスメーカーとの契約を、違約金を払って破棄し、愛工房の木材を使った家を建てた。「杉の優しい香りに癒され、まるで森林にいるような感じで深呼吸したくなります。素足で歩いても、温かみを感じるほど柔らかいです」と喜んでいるそうだ。

 また、ある家庭では、設計に丸一年掛けるほど凝りに凝って木造の注文住宅を作ったが、新築から3年目に同居していた父親が倒れてしまった。リフォームの相談を受けて打合せに行った伊藤さんは、あまりの底冷えで体が冷えるのに驚いた。
 せっかくの力作だった家だが、施主の「命のほうが大事です」との強い希望があり、愛工房の杉を使って全面リフォームを施した。今はとても満足して快適に過ごしている。

 愛工房の木を使いたいという希望者の用途は、個人の家だけには留まらない。幼児教育に携わっている女性が、自らがオーナーとなる新しい教室を池袋に開講することになり、愛工房の木を使った教室を作った。
 最初は、生徒が5名しか集まらなかったが、その後だんだんと生徒が集まり出して、2015年には100名に達し、「奇跡の杉教室」として注目を浴びた。
 現在は、同じビルにもう一つの教室を増やし、生徒数は230名に達している(他の教室も合わせて500名)。今年の3月に鎌倉駅の近くに開設する教室は湘南地域に愛工房の杉を使った教室の第一号となります。教室を開講予定だという。

 似た例で、英会話教室を新たに始めたいという方が、教室内の空気にこだわり、床から天井まで全て愛工房の杉を使った。杉の香りやぬくもりに包まれて、森林浴を体験しながら学んでほしいという希望だった。

 木に囲まれた環境が、実際に勉強する場所に適しているのかどうかについては、2013年に九州大学が発表したデータが興味深い。
 天然の国産杉の家と、合板など新建材の家とを比べた場合、天然の国産杉の家のほうが、疲れた脳が回復しやすく、体も活動的な状態になることが明らかになった。

 すでに、山口県山口市の幼稚園では、長年使っていた園舎の近くに3千坪の敷地を得て、全て木材の20棟近い園舎が建ちます。使用する地元の木材は3千本を越えます。

 マンションなどリフォームが難しいところでは、杉の板パネルが好評です。

杉の学術名は「日本の隠された財産」

 「日本の森林を活かすには、末端(消費者)の需要が必要です。消費者が欲しいと思う家や家具を作ることが一番大事なのです。そのためには、木の良さを活かす乾燥技術がどうしても大事になって来るのです」と伊藤さん。

 京都市のある街では、愛工房の乾燥技術を、地域おこしのモデルケースにしたいという計画も検討されている。木材乾燥事業を中心に、造作材・家具事業、育児事業(愛工房の木による託児所の建設や、木製品による木育展開など)、住環境改善事業(コンクリート住宅を愛工房の木を使った内装にリノベーションするなど)など、暮らしの中で連鎖的に事業を生み出して行くような構想だ。
 そして、それらの事業には、定年退職者、老大工、若手デザイナー、母親世代など、幅広い年代の雇用の創出が可能になる。

 「杉の学術名は『クリプトメリアジャポニカ』と言います。意味は『日本の隠された財産』です。よくその名前を付けたものだなと感心しますが、まさしく杉は日本の財産です」
 日本に植えられている木の中で一番多いのが杉だ。木の命を優先に考えることで、まさしく森林大国の可能性は底知れぬほど拓けて行くだろう。

 「人間は、地球上で一番能力を持っているのは人間だと考えるでしょう。知能は確かに人間が一番かもしれませんが、生命力に関しては、人間は木の足元にも及びません。
 木は人間がいなくても生きられますが、人間は木がなくては生きていけません。これからの時代は木の立場に立ち、木の素晴らしさを知り、木と共存して行くことです」

 取材を終えて、伊藤さんが「日本の山林業の救世主」と称されるのは伊達ではなかったと感じた。

 

(取材・文 水島恵山)