今の住宅事情には、ご用心を!

 世界各国の住宅の寿命は、各国の住宅耐用年数比較表(木俣信行 表2・建築物の耐用に関する諸統計 財団法人・日本建築学会「木材研究・資料 第37号 2001年」)によると、イギリスの141年、アメリカ103年、フランス85年、ドイツ79年、日本30年とありました。
 日本のレベルが低いこともあってか、最近、日本でも「100年住宅」「200年住宅」という言葉をよく耳にするようになりました。しかし、それは実情を伴ったものなのでしょうか。

 建物の寿命だけでなく、そこに住む人の寿命を延ばす素材を使った住宅がほんものの住宅です。生きた木は建物になっても呼吸しています。動物たちが必要とするものを提供して動物たちが吐き出すもの(二酸化炭素)を吸収する。つまり、住まいの中で森林浴をさせてくれます。すでに100年を経過している、日本の本物の100年住宅には、天然乾燥で酵素が残っている、生きた木しか使われていません。

 しかし、最近よく耳にするハウスメーカーがこぞって「100年住宅」「200年住宅」と謳って売り出している建物は、残念ながら生きた木を使っていないものが多いようです。たとえその木が呼吸する木であっても表面に化学製品を張ってしまったら、木は殺されたも同然です。塗料も同じです。せっかく無垢材を使っていても、化学物質の入った塗料で呼吸を止めてしまっては無意味です。

 日本の住宅の90%で使用されているといわれる「ビニールクロス」、正確には、「塩化ビニール」は、アメリカの住宅では全体の10%ほどしか使われていないと聞きます。
 さらに、そうした塩化ビニールを使わずに木だけ使っていても、安心できません。日本のハウスメーカーの大手が「安い」という理由で使っている輸入材(外材)は、化学物質ににまみれているのが現状です。外国の産地で船積みされたほとんどの木材は、防虫、防カビ対策に大量の農薬が使われます。つまり、”毒漬け”されながら海を渡ってくるのです。こうした木に染みこんだ毒は、建物や家具に使われたのちに、少しずつ揮発するなど大気に出てきて、住まいの空間を毒の空間にしていくわけです。

 石油から生まれた化学物質で、身体も脳も冒される。そのうえ、世界一短命な住宅のみならず、そこに住む人も短命になる住まい---。
 日本の住宅は、消費者の知らないところで、ひどい状況にあります。
 とはいえ、知っている人は知っています。しかも、意外な人が...。
 2010年の春、大阪で新築を予定している施主さんが、建築会社の社長と一緒に愛工房にやって来ました。施主さんはその建築会社に、仕上げ材は愛工房で乾燥した板材を使用するように指示していました。

 完成後、再び愛工房に来られた建築会社の社長のお話では、この施主さんは打ち合わせ段階から天然素材にこだわり、化学建材の仕様をいっさい認めなかったそうです。あらゆる方面から集めた情報の資材使用を厳しく要求されるので、一時はお断りしようかと思ったほどだったといいます。

 厳しい要求をしつづけた施主さんのお勤め先を聞いて、私は「やっぱり」と思いました。近く定年を迎えるこの施主さんは、誰もが知っている、建材・建築も関連している有名な化学製品メーカーの重役さんだったのです。

『樹と人に無駄な年輪はなかった
第1章 P.47より