一般的には、買うときは安く買ったことが得した気分になるものですが、長く使用するものは、使っているうちに買った時の値段よりも、その「もの」が良いか悪いかで評価されるのではないでしょうか。
本物は「もの」をつくる人たちがまず考えるべきことなのですが、買う人、使う人が真の健康、人と地球の未来を考えた選択をしだすと、「もの」をつくる人たちも変わらざるを得ません。
特に、一度建ててしまったら取り替えのきかない住まいの素材は、そこに住む人たちが「幸せ」になるか、「不幸」になるか、大きな責任を背負っています。
リフォームして体調が悪くなったり、待望の新築マイホームが原因で病気になってしまったら、たまったものではありません。住まいが原因で病気、その先にあるのは家庭崩壊と生命の危機です。
生命を守る住まいとは、呼吸する素材を使用している住まいを指します。
残念ながら、現代の日本の住まいを席巻しているハウスメーカーで使われている石油を原料とした化学建材には、化学物質を放出するものが多いのが現実です。人体の健康を損なうだけでなく、脳に対する影響もあると聞きます。最近は、昔では考えられないような犯罪があまりにも多くなっています。誤解を恐れずに言わせていただければ、近年の肉体的、精神的な障害の原因が住まいにある可能性が高いように思います。
どれだけ儲かるものをつくったとしても、それが環境を壊すものや生命を脅かすもの、そして将来的に負の遺産になるものであっては、絶対にいけません。子孫に何を残すのかが問われている時代です。
国策の名の下で、私たちの年代は生まれてまもなく戦争の犠牲になりました。そして今また、「原子力は国策」として進めてきたリスクを味わうことになっています。本来、国策とは国民のための対策であるべきはずなのに、国民を犠牲にする対策となっています。
目先の豊かさはもう結構。たとえ苦労しても、将来の幸せを目指す生き甲斐を求めたいものです。私は子供たちに、安心して暮らせる環境を残すお手伝いをしたいと心から思っています。
大量生産・大量消費・価格破壊の時代は、環境破壊・生命軽視の時代でもありました。これからは「生命優先」の時代にしないと、日本は「環境破壊先進国」として、いずれ世界中から非難を受けることになるでしょう。
「この品物は、あなたの生命を損ないます」
「こちらの品物は、生命を守ります」
されあなたはどちらを選びますか?
こう問われて、前者を選ぶという人はまずいないでしょう。
商品の善し悪しは、「生命に良いか、悪いか」が基準になる。そんな時代は、もうすぐそこまで来ています。キーワードは「生命」なのです。
環境を破壊するのは、常に大人たちです。子供たちに何を残すのか、何を残せるのか、何を残すべきか、いま真剣に考えて実践しないと、将来子供たちに恨まれるでしょう。私は、そんな大人でありたくありません。
『樹と人に無駄な年輪はなかった』
第6章 P.265より